Amazon Web Services (AWS) はさまざまなクラウドコンピューティングサービスを提供していますが、それらのサービスにはいずれも、単位時間や単位容量、アクセス回数あたりに廉価な課金単価が設定されています。そして、全世界の膨大なユーザーから(たとえ一人一人の支払いはどれほど少額でも)毎月「使ったら使った分だけ」の支払いが集まるという、まさにチャリンチャリンビジネスの極致のようなモデルを運営しているのが AWS だといえます。
ところがごくまれに、非常に少額の支払いが AWS から免除されるケースがあります。実際にこのようなケースを体験したので、紹介します。
(最初にお断りしておきます。この記事は、「IAM ユーザーのアクセスキーとシークレット情報を記述したソースコードを Git リポジトリに push して全世界に公開した」「セキュリティグループの設定が分からないのでとりあえず 0.0.0.0/0 から全 TCP/UDP ポートへの接続を許可した」などの結果、AWS アカウントやインスタンスへの侵入を受け、意図しない膨大な課金が発生してしまったような事例についての話ではありません)
少額の AWS 請求書が届いた
AWS では各サービスごとに一定の無料枠が用意されていますが、AWS アカウントを開設してから 12 か月の間は、それに加えて特別な無料枠を利用でき、小規模なシステムや検証用途であれば課金なしで運用をすることもできるようになっています。
ある時、EC2 仮想マシンや EBS ボリューム、スナップショット等の課金を含めて無料枠内でカバーしていたつもりだったのですが、月初に送られてきた AWS 請求書にわずかながら課金が発生しているのに気づきました。
わずか 0.04 US ドル、日本円にして 7 円なのですが、無料枠をはみ出したようです。AWS コンソール上でサービス別料金を見てみると、課金が発生していたのは Data Transfer つまり東京リージョン外との通信でした。
心当たりはあって、この時は新規の EC2 サーバー上でとあるアプリケーションのクリーンビルドを行っていました。外部のリポジトリからの依存ライブラリのダウンロード等で、それなりのボリュームの通信が発生してしまったようです。
クレジットカードへの課金が発生しなかった
理由が分かれば、この少額課金の発生は納得できるものだったのですが、さらに翌月になって、不思議なことに気づきました。AWS アカウントに紐づけているクレジットカードへの請求が行われていなかったのです。
AWS の課金の仕組みは、EC2 のリザーブド インスタンス購入のような個別購入を除いて、毎月 1 日から月末までの利用額が集計され、その合計額が翌月の月初に請求されるサイクルになっています。
クレジットカードの決済もこの請求のタイミングで行われますが、請求情報がクレジットカード会社に届くまでにはしばらくタイムラグがあるのが普通です。しかしこの時は、数日待ってもオンラインで確認できるクレジットカード利用明細に 0.04 US ドル分の決済が一向に載らず、結局クレジットカードの請求締め日が到来してカード会社からの請求書が発行されても、そこに AWS への支払いが見当たらない状況でした。
あまりにも少額なので AWS が支払いを免除したのかもしれないという予想はできたものの、AWS からは月初に請求書が届いており、そこには特に免除という記載もないので、気分的にすっきりしません。そこであらためて AWS コンソールの請求ページを見たところ、次のような表示を見つけました。
初期表示では「お支払い情報」が折りたたまれているので気づかなかったのですが、ここを開いてみると「支払いステータス」欄に「免除済み」と表示されていました。
やはり、請求書は発行されたものの支払いが免除されたことは確かなようです。
根拠となる規定はあるのか
事実として 0.04 US ドル(日本円で 7 円)の支払いが免除になったことは分かったのですが、根拠になるような規定や公式ドキュメントがあるのか疑問に思い、少し探してみました。
おそらく公式ドキュメントでの言及はないだろう(免除になる事実や基準を明らかにしてしまえば、何らかの悪用をするユーザーが出てこないとも限らないため。またあくまで AWS 側の裁量で支払いを免除しているに過ぎず、筋から言えばどれほど少額でも実際に支払いを求められても当たり前のことであるため)と考えていたのですが、実は AWS の「アカウント・請求関連のご質問」ページにちゃんと記載があったのでした。
Q. 請求が支払い免除となっているのはなぜですか?
月額料金の請求額が極めて少額な場合、お支払いが免除されます。 請求書ページにて「お支払い情報」を展開いただき、「免除済み」と表示されていることでご確認いただけます。
なお、お支払い免除となる具体的な金額や基準については公開しておりません。
今回、まさにこのパターンに該当したものとして支払いの免除にあずかったようです。
具体的な金額の記載はなく「極めて少額な場合」となっていますし、基準についてもやはり公開はしないことになっています。これは当然だと思います。今回は 0.04 US ドルで免除されましたが、同じ金額やこれより少ない金額でも免除されないかもしれないし、どんなに少額でも免除される回数は 1 つの AWS アカウントごとに有限かもしれません。
まとめ
AWS の月額課金額が極めて少額だった場合に、請求書は発行されるものの実際の支払いは免除されるケースがあります。
具体的な金額や基準は当然公開されていないものの、支払いを免除することがある事実については AWS のFAQ ページでも認められており、意外でした。免除された時に、わさわざ AWS サポートに問い合わせる人がいたのかもしれません。
実際には免除されてもされなくても、ユーザーにも AWS にも何も影響がない程度の金額だからこそ免除されているのだといえますし、同じ金額でも二度免除されることはないのかもしれません。「使ったら使っただけ支払う」AWS を活用しながら、いつか自分でも「使ったら使っただけ支払ってもらう」ビジネスを展開してみたいなと思うところでした。